9月22日 戸板中入試問題解説会  思考力問題のサンプル

戸板中が平成26年度から大きく変わります。グローバル、イノベーション、リベラルアーツのGIL路線を明確に打ち出し、カリキュラムの改革を進めているのです。その戸板中が思考力問題を取り入れた入試問題の解説会を開催するというので、参加してきました。(Reported by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家)

かつて広尾学園を人気校に育てた大橋清貫氏が教育監修理事に就任し、各教科の先生方と対話・議論を重ねながら、新しい戸板の教育をデザインしています。その入試問題のお披露目がこの解説会なのです。

新しい戸板を象徴するのが、解説会のスタイルです。説明をする先生方全員がパワーポイントを駆使し、舞台上のスクリーンに映し出されるスライドを元に説明をしていました。そういう説明会はよくありますし、それだけなら目新しいことは何もないのですが、戸板では、授業を意識した「プレゼンテーション」スタイルになっていた点が新鮮でした。つまり、保護者向け説明会であると同時に、受験生への体験授業という意味合いもあったのです。

2014年度から全員がiPadを持つという授業スタイルを先取りし、算数の図形問題、社会や理科の図表などでは、ビジュアルをスライドに取り込み、スクリーン上で解説することが意識されていました。特に理科では、実験の動画もスライドに加えたり、野菜を実際に舞台上で切って、断面を見せながら説明するなど、まさに「スーパープレゼンテーション」のスタイルです。

◇スライドの形式が教科間で統一されているというだけでなく、プレゼンのスタイルや説明する項目の基本構造まで揃えているところから、教科間のコミュニケーションがかなり進んでいるなという印象を持ちました。それぞれの教科を超えたところでの本質的なカリキュラムイノベーションが起こっているのです。

 各教科の思考力問題サンプル

◇国語の長谷川先生からは、思考力問題として二つのサンプルが挙げられました。そのうちの一つは、課題文である説明的文章の中の問いかけに対して自分の意見を述べるというものです。字数の指定は特にありませんが、解答欄から判断すると60字から80字ほどで書く記述問題です。自分の意見と理由が書かれていれば得点できるということですから、難易度が高いわけではありません。YesかNoか自分の立場を明確にした上で、その理由を述べるもので、唯一の正解を求めているわけではないということを示してくれました。

◇続いて算数の解説では、やはり二つの思考力問題が示されました。一つは図形問題。実際に受験生と保護者に解いてもらう時間も与え、その上で解説をします。受験生とその保護者が熱心に解いている姿が印象的でした。

 ◇算数でもう一つ示されたのは、数字を使わない算数の問題です。解説では、小学生で知っておく必要はないけれどもと前置きした上で、三段論法について簡単に触れました。論理学の領域からの出題です。

◇解説の際に、先生は、思考力問題を解説する一方で、計算問題などを確実に得点することでも十分合格点に達する可能性もあることを示唆されました。算数の今回の出題に関しては、思考力問題は時間のかかる、難易度の高い問題として位置付けられており、絶対に正解する必要があるわけではないということをあらかじめ受験生に伝達したわけです。

 

実はここに重要な情報があります。国語科では思考力問題を、多様な答えがあり得る分、難易度のそれほど高くない問題に設定したのに対して、算数科では思考力問題を、より難易度の高い問題設定としたということです。つまり、戸板において思考力問題は、難しい問題としても、あるいは易しい問題としても設定することがあり、その情報を開示してくれているわけです。 思考力の軸と難易度の軸を、独立した別の尺度であると捉えていることからも、戸板の先生方が、従来型の偏差値的尺度で子どもの学力を見ていないということが分かります。

 

◇社会科では、市川先生から二つの思考力問題について解説がありました。そのうちの一つが「紅白歌合戦の視聴率とインターネットの普及率の推移」に関する、下の問題です。

◇市川先生は、受験生が因果関係と相関関係を混同しないように留意しながら、すなわち、グラフからだけでは原因は特定できないことを踏まえた上で、「あり得る」解答についての解説をしてくれました。

 

◇ ここでも解答は様々あり得るので、思った事を書くことが大切です。ただし、解答する上で前提となるのは、社会に対する関心です。この関心を育んでいこうとすることが戸板の社会科のスタンスなのでしょう。それは社会科の思考力問題として示された別の問題でも明らかです。

◇日本最南端の島の名前を問うのではなく、国がその島を護る理由を出題したり、あるいは、千島海流が「親潮」と呼ばれる理由を考えさせる問題を出題するというのは、社会的事象を単なる「知識」として処理するのではなく、社会的な関心を育むきっかけにしようとする姿勢が戸板の先生方にあるからなのでしょう。


◇理科は川口先生から、グラフデータを分析して、それぞれがどの野菜を示しているのかを問う思考力問題について解説がありました。

冒頭に紹介したように、実験結果を動画で見せたり、実際に野菜を切って断面の水分を確認したりするなど、理科の新しい授業スタイルを示してくれました。こういうスーパープレゼンテーション型の授業であれば、実験室に行かずとも、検証結果を確認できるし、あるいは図書室に行かずとも、調べものができるわけです。来年のiPad 導入が戸板の授業を大きく変えることでしょう。

◇また、こういった戸板のイノベーションは、単に電子機器の導入といったレベルではなく、カリキュラムレベルで起こっているため、今後新しい動きが次々に顕在化してくることでしょう。戸板の改革の中身については、21世紀型教育を創る会(21会)のサイトでも詳しく紹介されています。

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