ミュージアムを教育に活用するには
欧米の博物館や美術館を訪れると、小学校低学年の子ども数名を引き連れて作品の解説をしている先生をあちこちで見かける。
美術を専門に学んでいるわけではない子どもたちを相手に話すのであるから、先生のする解説は、色使いや構図といった技法ではなく、絵の中にこめられている物語であったり、歴史的な事実であるのだろう。子どもたちからすれば、絵本や紙芝居を見る感覚に近いのかもしれない。
もともと芸術作品には宗教や歴史を伝える働きがあったわけだから、ミュージアムで歴史や道徳について考えるというのは理にかなっている。学芸員や評論家でなくても、どんどんこういう場所を授業に活用するべきである。
ミュージアムを活用するといっても、日本は西洋とは事情が違うといわれるかもしれない。確かに日本の伝統的な芸術作品というのは、建築や庭園など、周囲の自然と調和しながら存在していて、博物館や美術館で見るという性質のものではないことが多い。しかし、そうであるならば、典型的な日本家屋や、近所の神社やお寺でもよい。それこそ神社とお寺にあるものを比較することから学びは広がるであろう。
一方で、外国の文化・文明を知るという方向性でのミュージアム利用も考えられる。海外の芸術作品を気軽に見ることができるようにするということについては、国がもっとミュージアムの数の増加や質の向上を図るべきであろう。入館者数の多い美術館の一覧を見てみると、やはり日本は欧米に大きく差をつけられている。
ミュージアムが活用されていないということは、芸術についての関心が低いということの結果なのではなく、むしろ原因になっている可能性がある。入場料を安くして、子どもが気楽に入れる場所にしていくことが必要であろう。
グローバル教育を推進するというのであれば、アートについて世界の人と語れる能力を育成することは急務であるはずだが、相変わらず日本では、実技重視で、アートのクリティシズムにはほとんど触れられない。だから職人的なアーティストをたくさん輩出しても、それを国家戦略として活用しきれないのである。
少しグーグルで検索すれば欧米のアート教育では、クリティシズムの方法論が山ほど出てくる。ブルームのタキソノミーを応用しているのは明白で、「描写→分析→解釈→判断」といった具合に、音声ガイドを聞いていても、構造化された解説を聞くことができる。
芸術というと、溜め込み型ひけらかし型の教養主義と捉えられがちだが、そうではなく、西洋文明とセットになって機能している点に注意する必要がある。古代ギリシアを礎とすることから始まって、キリスト教や様々な風俗・歴史などを重層的に組み込みながら、西洋文明の分厚さを展示するミュージアムは、単に歴史を誇っている場所なのではなく、自らをクリティカルに捉え返す視点を観る者に与えているのである。
グローバル化時代の21世紀スキルとして本気で学ばないといけないと感じる。