麻布の『論集』はリベラルアーツそのもの
麻布生の授業や活動の成果が生徒自身の作品によって語られている『論集』は、麻布の教育に注目する人ならば誰でも知っているほど有名な<非売品>です。
先日私はたまたま最新版(34号)を入手し、目を通してみる機会を得ました。そして、これはどんな広告代理店が作る学校案内よりも遥かに良く麻布の教育の質を伝えるものだという確信を強めました。リベラルアーツの知がここに収められていると言っても過言ではないでしょう。
中3生の卒業論文である文芸批評は、IB ディプロマのLanguage Aで文学作品の分析を行う高校2・3年生のレベルに匹敵、あるいは凌駕しているとさえ言えます(日本の大学受験の現代文はお話になりません。作品の解釈や時代背景の分析といった創造的思考はほとんど必要とされないからです)。
また、高校2年生の社会科では、古今東西の思想家の著作に触れることで、自身の思索を深めることを目標としていて、これまた大学入試のための一問一答式の問題集に取り組むレベルとは、まったく異次元の学びが実践されています。思想家の生きた時代背景から思想の成り立ちに迫ったり、あるいは、概説書ではなく原典を丸ごと読むという課題に取り組んだりしています。ユニークな課題としては、フランスのバカロレア試験を実際の試験と同様に4時間かけて、日本語で作成するといったものもありました。
その他にも、数学、美術、家庭科、書道といった教科からの作品が掲載されていますが、いずれも、中高生の才能の可能性を思い知らされる出来栄えです。自分自身が知らず知らずのうちに、生徒の能力を規定してしまっているところがあるかもしれないと反省させられました。
こういった麻布中高のエートスは何によるのでしょうか。よく言われることですが、やはり創立者である江原素六に行き着くように思います。麻布は江原素六の精神をとても大切に守っています。その一つの表れが中1の10月に沼津までお墓参りに行くというプログラムです。また、中1生は一学期の道徳の時間に、創立者である江原素六についての授業を校長先生から受けるということです。そして『江原素六の生涯』という本の感想文を書き、それが『論集』にも掲載されています。
中1という、まだ入学後間もない時期に創立者の精神に触れ、自分自身との対話(=リフレクション)を行うという伝統が、麻布のリベラルアーツの根幹にあるのでしょう。