「21世紀に求められる能力」を考えるセミナー(3)
この前の記事では、「知識と思考の関係」について「21会 学習理論部会」の議論をダイジェストでお伝えした。この記事では、知識と思考について、IB Diploma Program のTheory of Knowledge (TOK) ではどのように捉えられているかについて見てみることにする。
上の図は、TOKダイアグラムと呼ばれているものである。中心にいる学習者を取り囲むようにWays of knowing (WOKs)(=知る方法)と、Areas of knowledge (AOKs)(=知識の領域)が配置されている。ダイアグラムの中では、WOKsに4つの単語が書かれているが、2013年に出版されているガイドを参照すると、この方法は8つに増えている。その8つとは、ダイアグラムに書かれている4つに加えて、Imagination, Faith, Intuition, Memoryである。これらのWOKsがそれぞれどのような方法であるかは、また別の機会に書くことにするが、ダイアグラムに出ていない重要な概念として、Knowledge Issue(KI)というものがある。
この概念について、リンデンホールスクール校長の大迫弘和先生が、著書「国際バカロレア入門」の中で丁寧に解説しておられる。そこから少し引用させていただく。
TOKプログラムは、知る方法や知識を綿密かつ明確な意図をもって調べ上げるもので、そのほとんどが、問いで構成されています。もっとも重要な問いは、「私は、あるいは私たちは、ある断言が真である、あるいはある判断が確実な根拠に基づいているということを、いかにして知ることができるか?」ということです。
ここで、断言や判断といわれるものは「知識に関する主張(Knowledge Claim)と呼ぶことにします。一方、こうした問いに取り組む時に生ずる困難は「知識に関する疑問(Knowledge Issue)」と呼ぶことにします。
問いは、思想家たちが幾世紀にもわたって考えてきた時代を超えた問いであれ、現代の生活の中から発せられ、しばしば通念に疑いを投げかける新しい問いであれ、TOKの本質そのものを表します。教師は生徒とともに知識の批判的検討に取り組みながら、生徒のうちに「知識を探求するということ」について、とりわけその重要性、複雑さ、人間にもたらす影響について理解を深めさせることになります。
IBが出版しているTOKのテキストからも一例を挙げてみよう。
Knowledge claim | Possible knowledge issue |
Wikipedeia says that Bangkok is in Thailand. | How can I use reason to know whether information from an internet source is accurate and reliable? |
A force of attraction exists between any two material objects. | Why should we believe a general scientific law when we have not tested every instance? |
上の表のKnowledge Issueの欄に「Possible」と書かれているように、Knowledge Issueは、一つのKnowledge Claimに対して、いくつも存在し得る。そして一目見て明らかなのは、Knowledge Issueが疑問の形を取っていることである。
ちなみに、Issueが多義的な言葉であるためか、2013年のガイドブックでは、Knowledge Issueという表現に代わり、Knowledge questionsという表現が使われている。その意味でも、Knowledge Issue を「知識に関する疑問」と訳されている大迫先生はやはり、さすが日本におけるIB教育に関する第一人者である。
ともあれ、「21会」の学習理論部会が、知識と思考の関係をセパレートせずに捉えようとしたのは、Knowledge ClaimとKnowledge Issueの関係と構造的に同じである。Knowledge Issueが疑問であることは、思考の出発が問いであるとした議論の出発点も全く同じ。
それもそのはずで、「21会」の幹事校メンバーは、大迫先生を交えて勉強会を行ったことがあり、すでに国際バカロレアについてはかなり調査研究を進めている。
こういった先進的な取り組みを常にしているところが、「21会」の強みである。学習理論部会の分科会においても、間接的に影響を受けていると言えるのではないだろうか。
次の記事では、思考力テスト部会のメンバーも交えて、議論がさらに深まっていく様子をお伝えしたい。