聖学院 中2夏期学校を支える「活動理論」

Taxonomy upgrade extras: 

聖学院の高橋一也先生とお話をする機会があった。中2の夏期学校で北アルプスの蝶ヶ岳から戻ってきたばかりだという。帰宅して聖学院のホームページを見ると確かに写真がアップされていた。

高橋先生は、レゴ・シリアスプレイの公認ファシリテーターで、聖学院のPBLそして21世紀型教育を牽引している。レゴは、MITのシーモア・パパート氏が提唱するコンストラクショニズムの考えをベースにしたシリアスプレイというプログラムを開発し、企業研修などで活用されているが、それを聖学院の思考力セミナーに導入したのも高橋先生である。

お会いした時には、登山の話は、iPhoneに収められた北アルプスの絶景を肴に数分間で終わったのだが、翌日に送っていただいた、前年度の研究会発表資料に目を通してみて、その徹底したPBLの質の高さに驚いた。

まず、なぜPBL学習を導入するのかという前提が明らかにされる。

PBL学習を通じてこれまで社会的な文脈から引き離されていた内容を、活動実践の中に引き戻すことが出来るのである。生徒たちは眼前にある具体的な課題に取り組みつつ、自分にとって意味のある行動や学習内容 を徐々に内面化しながら成長を続ける。つまり、PBL とは社会的真生性の高い 学びを具体的な活動の中で学習する有力な手助けとなるのである。

また、PBLにおける評価として形成的フィードバックを与えることの重要性にも触れる。

PBLでは客観的な学習指標、ルーブリックを提示する。このルーブリックを用いることで生徒たちは、自己モニタリングをすることができるようになり、自分の学習段階を他人と比べることなく把握することが出来る。また、学習内容が具体的に示されているため、「何を」学ぶべきなのか理解しやすい。さらに、ルーブリックがあることで教員は生徒に対する形成的フィードバックを与え、生徒一人ひとりの学習をモニタリングすることが出来る。つまり、課外活動にPBLをすることで、生徒達は「何を学ぶべきか」や「何を学んだのか」を客観的に確認する反省を促し、能動的な学習を支援することが出来るのである。

さらに、高橋先生はエンゲストロームの活動理論をベースにしてPBLを組み立てている。

 

エンゲストロームは、ヴィゴツキーやレオンチェフといった先人が築いてきた活動理論をさらに発展させ、Learning by expandingという概念を提唱している。主体と客体(対象)に加えて、コミュニティ(共同体)という第3の軸が学びを促進するということである。

高橋先生はかつてエンゲストローム氏に会うためにみずからヘルシンキ大学を訪問したという。この情報感度の高さと行動力には舌を巻く。

21世紀型の学びにおいてコラボレーションの力を重視するのは当然の流れで、国際バカロレアのMYPでもパーソナルプロジェクトにコミュニティプロジェクトが新たに加わり、DiplomaにおけるCASやTOKに接続していくことになっている。一人で黙々と受験テクニックや知識を溜め込んでいる日本の受験勉強は、世界標準の学びの中で、もう風前の灯である。

それはともかく、高橋先生との語らいは、登山やPBLの話から中世文学とテキストマイニング、グーグル・アマゾンとICT、LMSの最先端の話まで興味が尽きない。いずれ再会しましょうとほろ酔い加減で帰宅した。

聖学院でのチーム高橋の活動は私立学校研究家の本間勇人氏がブログで紹介しているので、そちらもご参照いただきたい。

 聖学院がPBLにおいて先進的なわけ(1)

 聖学院がPBLにおいて先進的なわけ(2)

聖学院がPBLにおいて先進的なわけ(3)